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穏やかな八代海に面した熊本県水俣・芦北地区。温暖多雨な気候と西からの潮風にはぐくまれ、サラダ用たまねぎ『サラたまちゃん』は力強く育っています。2月下旬から5月ころまで“生でもおいしく食べることができるたまねぎ”として、全国的に人気が高い『サラたまちゃん』ですが、その誕生への道のりは決して平坦なものではありませんでした。今回は『サラたまちゃん』にまつわるエピソードと、たまねぎに人生を賭ける『サラたまちゃん』農家の田畑和雄(かずお)さん(57歳)をご紹介します。 |
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「思い切って生産者の道を歩み始めて、10年の月日が流れました」と語る田畑さん。47歳までは、JAの職員として水俣・芦北地区で、16年間にわたりたまねぎの営農指導などを行ってきました。当時、たまねぎ農家の皆さんの苦労を目の当たりにした田畑さんは、温暖な水俣・芦北の気候を生かし、端境期(2月)に出荷できる春たまねぎを育て価格を安定させることで、もっと貢献したいと考えました。田畑さんが、種苗メーカーに相談すると、田畑さんの熱意に動かされた担当者から、当時出たばかりの新種のたまねぎの種を託されたのです。
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早速田畑さんの思いに賛同した生産者の仲間たちによって試験的に作られた春たまねぎ。初収穫のたまねぎをスライスし、しょうゆを垂らして仲間と食べた田畑さんは「甘くて、雑味のないおいしさに感動しましたね。生でもおいしく食べることができるサラダ用のたまねぎとして売りだそうということになりました」と当時を振り返ります。こうして、昭和63年に生まれたのが、サラダ用たまねぎです。 |
その後、さまざまな地域で試食販売を始めた田畑さんたちは、普段は生たまねぎを食べようとしない子どもたちが、おいしそうに食べる姿を見て“このたまねぎはいける!”という確信を深めます。しかし、この後田畑さんたちに大きな壁が待ち受けていました。
「このたまねぎ、水俣産だけど大丈夫ですか?」。試食販売の時、そうお客さんに聞かれた田畑さん。水俣の地で生まれ育った田畑さんは、安心でおいしいたまねぎを作るために、農家の方々がさまざまな努力を重ねていることをできるだけ多くの人に知ってもらいたいと思うようになりました。そのため、仲間たちと栽培におけるガイドラインを作り出荷用のダンボール箱や包装用のビニール袋にも印刷。「安心して食べていただけるたまねぎだということを消費者や販売店の皆さんに伝えたかったんです」と語ります。
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仲間たちとはぐくんだ「サラたまちゃん」。田畑さんたちの地道な努力の甲斐あって、そのおいしさが徐々に評判を呼び、メディアにも頻繁に取り上げられるようになったサラダ用たまねぎ。平成10年には、『サラたまちゃん』という名前で商標登録することもできました。 |
今の季節は出荷の最盛期を迎え、日の出とともに収穫を始めます。「この形、この雰囲気、『サラたまちゃん』のすべてが好き」と語る田畑さんは「たまねぎに人生を賭け、やりたいことをやってきた。水俣、芦北の風土と仲間が支えてくれたから、ここまで来ることができたと感謝しています」と語ります。 |
取材日 平成23年4月13日 |