研究を重ね、
オクラづくりに賭けた試行錯誤の日々。
悠々とそびえる倉岳(くらたけ・標高680m)を西に望み、不知火海に浮かぶ島々が見渡せる海辺の町に、稲田さんのオクラ圃場はありました。秀敏さんがオクラづくりを始めたのは30年前。温暖な気候と潮風、そして倉岳の豊かな湧水がオクラづくりにぴったりの環境だと考えたからです。「九州でオクラを作っているところが少なかったこともあり、仲間とともに試行錯誤を重ねました」と当時を振り返ります。オクラはとてもデリケートで、梅雨の長雨により花が落ちたり、花は咲いても実がならないなど、さまざまなトラブルが稲田さんたちを待ち受けていました。そんな中、定植時の温度管理や、肥料を与える回数やタイミングなど、仲間とともに研究を重ねた秀敏さん。一つひとつ困難を乗り越えていくうちに、今では倉岳町は天草一のオクラの産地となりました。「オクラは倉岳町のすばらしい自然と、私たちの情熱が生み出した努力の結晶なんです」。


夫婦二人三脚で。
オクラの葉はかぶれやすく“収穫の時は、帽子とタオルは欠かせないんです”と、さわやかな笑顔で語る香代子さん。午前中は秀敏さんとともに収穫を、午後はオクラを傷つけないようにネットに詰める作業を黙々とこなしています。秀敏さんと香代子さんが出会ったのは、中学生のころ。二人で支え合い長い年月が経った今、香代子さんへの感謝の思いでいっぱいだと語る秀敏さん。「妻の明るい笑顔には、いつも励まされていますね」。
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手入れをすればするほど、
オクラは応えてくれる。
“柔らかくてみずみずしいオクラを育てる一番の条件は、豊かで清らかな水”と語る秀敏さん。3月頃、レタスの収穫が終わった畑にオクラの種を植えます。花芽がつくころになると、その圃場に倉岳の湧き水を引き、くるぶしがつかるほどふかふかの水田を作り、根が張りやすい状態をつくります。その後、6月〜11月の収穫期が終わるまで、バーク堆肥(*)をほどこしたり、こまめな剪定を行うなど、細やかな手入れが欠かせません。「手をかければ、かけた分だけ応えてくれるんです」。また、オクラは一つの圃場で3年に1度しか作らないのだそうです。「おいしいオクラをつくるためには、土をゆっくり休ませ、力を蓄えさせることが大事なんです」。毎朝6時には収穫を始めるという稲田さんご夫婦。丁寧にネットに詰め、新鮮なうちに関東や関西などの市場に送ります。
*バーク堆肥…豚糞と樹木の皮を混ぜた堆肥

80代の先輩たちには、負けられない。
倉岳町では、80代のオクラ農家の方が現役で頑張っています。「わたしはまだまだ若手。先輩たちには負けとられません。これからも、さらにおいしくて安全・安心なオクラづくりにチャレンジしていきたいですね」と、秀敏さんは目を輝かせます。「わたしの夢は、天草をオクラの島にすること。オクラづくりで培ったノウハウを皆さんに伝えていきたい」と力強く語ってくれました。
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