スイカの産地・植木台地で
あえて大長なすの生産に挑戦。
「この色、この形、たいぎゃ、むしゃんよか(とてもかっこいい)でしょ?」。長さが40cmほどもある大長なすを片手に、ほほえむ井村さん。「くまもとふるさと野菜(※)」に認定されている大長なすは、日本で最も長いナスとして知られています。今の季節は、毎朝4時にはハウスに入り、一つひとつ手作業で収穫していらっしゃいます。
先人たちの熱い思いと試行錯誤によって、日本一のスイカの産地として知られる植木台地。以前は主にスイカの生産をしていた井村さんが大長なすの生産に挑戦した理由について語ってくれました。
「清水(きよみず)という地名からもわかるように、ここはミネ

大長なすの生命力に驚く。
7年前からナスの生産を始めた井村さん。2月初頭にナスを定植し、順調に育っていた矢先、思わぬ出来事がおこりました。4月にビニールハウスの換気が思うようにいかず、ナスをすべて焼き枯らしてしまったのです。育てていたナスは全滅し、途方に暮れた井村さん。その時、父・正利さんの“とにかく切り込むしかない”というアドバイスを受け、実も葉もすべて落とし短く切り込みましたが、そんなナスの姿を見て申し訳ない気持ちでいっぱいになったと語ります。それでも、それから毎日欠かすことなく手入れをしていると、短く切り込んだ幹から、葉や芽が伸びてきました。最終的には、太く黒々と光るナスがたくさん実ったのを見て、その生命力に驚いたと語ります。「こいつらは、精一杯生きている!思わず“おまえたち、やるなあ”と声をかけました」。

仲間とともに。
正裕さんとともに歩んできた妻の君子さんは「真夏の収穫作業は大変です。最初のころは、ハウスの中でよく倒れたりもしましたよ」と笑います。ハウス内の高温は、ナスにとっても大きな負担で、暑すぎると伸びが悪くなったり、色落ちの原因になることから、こまめに換気をしなければなりません、と君子さん。また、平均年齢30代の「JA鹿本大長なす部会」の仲間とともに、天敵や防虫ネットを使った減農薬への取り組みや、勉強会・販促活動なども積極的に行っています。
「ナスから教えられることはたくさんあります。本当に同志のような存在ですね」と語るご夫婦の姿が、爽やかで印象的でした。 |
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ラルたっぷりの豊かな水に恵まれています。この恵まれた環境で、新しい作物に挑戦したいとの思いから、真っ先に思い浮かんだのが大長なすでした。アクが少なく柔らかな食感で、生で食べた時のリンゴのようなさわやかさに惚れ込みました」。
父・正利さんも大長なすを手掛け、思い切ってやってみろと背中を押してくれたことや、3月から10月まで安定して収穫でき、台風などでハウスがダメージを受けても作物への影響が少ないことも魅力だったそうです。
家族と大長なすの力に励まされて。
また、順調に収穫作業が進んでいた同年10月に足を骨折し、入院を余儀なくされた井村さん。1ヶ月半後に退院し、最初に足を運んだのが、収穫を終えたばかりのナスのビニールハウスでした。「葉はぼろぼろで、すべての力を出し切ったナスが、なんとか立っているような状態でした。自分が入院している間、家族もナスも頑張ってくれたんだということが一目でわかり、“よし、家族と一緒にこのナスにかけてみよう”と改めて思いました」。

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